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新型コロナウィルスの流行で外出自粛が呼びかけられる中、私の8×10の大きなカメラは一歩も外を出ずにいました。ひとたび大型カメラで撮影となると、カメラバッグに三脚、フィルムフォルダーなど、はたから見ればまるで旅行に出かけるほどの荷物になります。

人目を避けて出かけようかと考えもしましたが、そんな気にもなれず、ほとんどの時間を家で過ごしていました。ある日、母から荷物が送られてきました。箱を開けるとジャガイモなどの野菜などがぎっしり。以前は手間のかかる野菜作りなど「時間がない」「割に合わない」などと見向きもしなかった母ですが、定年退職し、時間に余裕ができてから家庭菜園に精を出すようになりました。かつて厳しかった母ですがゆったりと植物を愛でる余裕ができたからか、性格が少し丸くなったような気がします。

箱から野菜を取り出し、食べる前にケースから大型カメラを出して組み立てました。レンズ越しに野菜を見つめ、ピントを合わせるなど撮影までのプロセスはまるで特別な儀式のようでもあります。1枚だけ撮ってカメラを片付けました。ありきたりの家庭菜園の野菜ですが、写真に撮って残しておくのも悪くはありません。今回展示の作品は昨年の夏、緊急事態宣言が明けてしばらくし、田村さんに手伝ってもらいながらプラチナバラジウムプリントで仕上げました。銀塩よりしっとりした質感が表現できたように思います。野菜はすでに私の腹の中、おかげさまで血や肉となって今日も元気に過ごせています。

​最後になりましたが、展示をご覧いただいた方々ありがとうございました。また、このような状況の中、心の中で開催を祝っていただいた方にも感謝申し上げます。

母が育てた野菜

AKIKO KITAGUCHI

P H O T O G R A P H Y